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神戸地方裁判所伊丹支部 平成8年(ワ)136号 判決

甲事件原告・乙事件被参加人

破産者株式会社シェルパ製作所破産管財人

朝本行夫

甲事件被告・乙事件被参加人

兵庫アクティブ株式会社

右代表者清算人

田口隆久

右訴訟代理人弁護士

松葉知幸

乙事件当事者参加人

破産者大田洋一破産管財人

矢倉昌子

主文

一  甲事件原告・乙事件被参加人、甲事件被告・乙事件被参加人及び乙事件当事者参加人の間で、甲事件原告・乙事件被参加人が別紙会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。

二  甲事件被告・乙事件被参加人は、甲事件原告・乙事件被参加人に対し、別紙会員権目録記載のゴルフ会員権に関する会員証書を返還せよ。

三  乙事件当事者参加人の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、甲事件・乙事件を通じて、これを二分し、その一を甲事件被告・乙事件被参加人の負担、その余を乙事件当事者参加人の負担とする。

五  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  甲事件

主文と同旨

二  乙事件

1  乙事件当事者参加人(以下「参加人」という。)と甲事件原告・乙事件被参加人(以下「原告」という。)及び、甲事件被告・乙事件被参加人(以下「被告」という。)の間で、乙事件当事者参加人が別紙会員権目録記載のゴルフ会員権(以下「本件会員権」という。)を有することを確認する。

2  被告は、参加人に対し、本件会員権に関する会員証書(以下「本件会員証書」という。)を返還せよ。

第二  事案の概要

一  本件は、原告、被告及び参加人の間で、本件会員権が、破産者株式会社シェルパ製作所(以下「破産会社」という。)と破産者大田洋一(以下「大田」という。)のいずれに帰属しているのかをめぐる紛争であり、原告及び参加人がそれぞれ自己への権利帰属の確認と本件会員証書の返還を被告に求めるという事案である。

二  争いのない事実・証拠により容易に認定できる事実

1  破産会社は、平成七年一一月二二日、当庁で破産宣告を受け、原告が破産管財人に選任された(本件記録中の証明申請書)。

2  大田は、平成七年一一月二四日、大阪地方裁判所で破産宣告を受け、参加人が破産管財人に選任された(各当事者間に争いがない。)。

3  社団法人宝塚ゴルフ倶楽部(以下「本件倶楽部」という。)における本件会員権の名義は大田とされている(各当事者間に争いがない。)。

4  被告は、本件会員証書を占有している。

三  争点

1  本件会員権の帰属

(一) 原告

(1) 本件会員権取得の実質

① 破産会社は、平成三年六月ころ、本件会員権につき、前名義人に対し金八五〇〇万円を支払い、あわせて、本件倶楽部に対し名義変更料を支払うことにより本件会員権を取得したものである。ちなみに、右の金八五〇〇万円は、内金三五〇〇万円につき破産会社の現金で、また、残額については、破産会社が、株式会社兵庫銀行及び被告の了解を得て、同銀行伊丹支店を窓口にして被告から、本件会員権が個人会員権であることに合わせて大田名義を借用する形式により借入れた金員で賄われた。

② 破産会社が個人会員権を取得したのは、本件倶楽部が名門コースであるため、法人会員権が市場で取引されることが稀で入手が困難であり、かつ、入会資格が極めて厳格で会社が名義変更を受けることは不可能に近いこと、さらに、経費の点でも法人会員権が個人会員権の倍額にのぼるという事情からであった。このような実態を受けて、本件倶楽部における扱いも、個人名義の会員権であっても、実質上法人に帰属する場合には法人から年会費等の支払を受け、未納年会費等があれば法人に対して支払請求をするというようなことが行われている。したがって、本件倶楽部に対する会員名義がどのようなものであるかということのみによって本件会員権の帰属を決することはできない。

③ 参加人は、従前、本件会員権が原告に帰属することを承認しており、大田の破産手続において、被告から本件会員権取得にかかわる貸付債権の債権届を受けた後である第一回管財人報告書を当該破産裁判所に提出した時点においても、本件会員権を大田の財団資産と考えておらず、また、同報告書中で、本件会員権取得に関係するはずの被告の債権についても大田の借入金ととらえていないもので、本件会員権の年会費についても参加人は支払うことなく、かえって、原告に対し、本件倶楽部から送付された年会費等の請求書類を送付したうえで、原告において右費用等を支払うよう求め、原告も当初から本件会員権が自己に帰属するものとして破産裁判所の許可を得たうえでこれまで右の費用等を支払ってきているものである。

(2) 民法九四条二項適用・類推適用についての反論

① 本件会員権は、本件倶楽部の承認の如何にかかわらず当事者間で有効に譲渡することができるものであること、他方、本件会員権にかかる会員名簿の公開・閲覧制度が一般的に存在しないこと、しかも、名義変更手続についても不動産登記の場合と異なり、本件会員権では本件倶楽部に名義変更を求めようとすると高額の名義変更料の支払を求められ、実質的権利者のみの手続的努力で名義変更がなされ得るというものではないことから、本件会員権の登録名義をもって権利の公示方法であるとすることができないことから明らかであるから、右名義を権利の外観ととらえて、本件でも民法九四条二項の類推適用があるとの参加人の主張は採用されるべきでない。

② 破産会社としては、本件会員権の種別が個人会員権であることから、必然的に本件倶楽部との関係で優先的利用者を指定する必要があるため、大田の名義を登録したにとどまるものであるから、右の指定行為をもって民法九四条二項の類推適用を容認するような破産会社ないし原告における虚偽的要素ないし帰責事由とみることもできない。

③ 破産管財人といえども、破産者の承継人たる立場を併せ持っているのであり、破産による包括的差押・管財人の第三者性という命題だけで法律関係のすべてを処理すべきでない。とりわけ、本件のように、原告と参加人がいずれも破産管財人である場合を考慮すると、民法九四条二項の類推適用という表見法理をもって破産会社の債権者に不測の損害を及ぼしてよいとする実質的理由・合理性はみあたらない。したがって、大田の債権者としても本件会員権については大田の一般財産として期待できないものというべきで、参加人の権利主張も排斥されるべきである。

④ 前記二1(一)(1)③の事情に照らせば、参加人は、大田が本件会員権の実質的権利者でないことにつき悪意であり、また、参加人の主張は従前の原告に対する態度と矛盾し、かつ、本件において民法九四条二項の類推適用を主張することは禁反言の法理に抵触し、信義則にも反するものであるから、参加人の右主張は排斥されるべきである。

(二) 被告

被告は、平成三年八月七日、大田に対し、本件ゴルフ会員権購入資金として金五〇〇〇万円を、本件会員権を担保(譲渡担保及び質権)としたうえで、返済期を同年九月から毎月六日に金六七万一三四六円、最終期日に金六七万一二四六円の合計一二〇回分割弁済の約定により貸し付け、右貸付実行と同時に、被告は、大田より本件会員権に対する質権の設定を受け、かつ、本件会員権証書の交付を受け、以後、同証書を占有している。ちなみに、大田によれば、本件会員権購入金額は金八〇〇〇万円で、前記被告の融資額を超える金額については大田の自己資金で賄ったと聞いている。そして、平成三年八月七日以降、平成六年一月六日までの間の合計二九回の返済は、いずれも兵庫銀行伊丹支店の大田名義の預金口座を用いて自動送金により被告に振込まれ、約定返済が遅滞し始めるようになった平成六年二月以降の合計一八回の返済は、三回が現金で、一五回が小切手(すべてが破産会社振出のものであったか不明である。)の換金により送金されるようになった。

なお、右貸付・担保設定の当事者については、予備的に、「大田」とあるところを「大田こと破産会社」と読み替えた内容の契約の成立を主張する。

(三) 参加人

(1) 本件会員権取得の実質

前記被告の主張にくわえ、被告は、大田の破産手続において参加人に対し、借入金元本金四一三四万一九〇三円及び破産宣告前日までの遅延損害金二九六万七五五五円を破産債権として届けている。また、ゴルフ会員権は、会員のゴルフ場経営法人に対する権利義務を内容とする契約上の地位であり、会員はクラブ理事会の承認を得てその債権的法律関係を他に譲渡できるものであるところ、本件会員権については、理事会の承認を得て会員になっているのは大田個人であって破産会社ではなく、本件会員権の種類は個人会員であり、入会金及び名義書替料も個人会員としての金額しか支払っていない以上、税務上いかなる処理をしようとも原告は会員とは認められない。

また、本件会員権購入につき借入れた金員については、大田個人の借金の返済として、破産会社経理担当者が大田個人名義の通常も預かり返済処理していたものであり、破産会社の借金として破産会社が右返済をしていた証拠といえるものはない。

なお、破産宣告申立書あるいは破産管財人の報告書中に記載されていない財産があっても、そのことから直ちに当該財産が破産者の財産に属しないものとなるものではない。

(2) 民法九四条二項の適用・類推適用

破産管財人は第三者保護規定との関係では第三者に該当し、かつ、破産宣告時における差押債権者の地位が認められるところ、右保護規定にかかる善意・悪意の判断は破産債権者を基準として行い、破産管財人としては、破産債権者のうちに一人でも善意者がいることを主張立証すれば無効主張を排斥することができるというべきである。

そして、ゴルフクラブ会員権は、会員のゴルフ場経営法人に対する権利義務を内容とする契約上の地位であり、会員は理事会の承認を得て右の債権的法律関係を他に譲渡することができ、右承認のない譲渡も当事者間では有効であるが、ゴルフ場経営法人に対する関係ではその効力を主張できないものである。そこで、債権であるゴルフ会員権の場合は、ゴルフ場経営法人に対する通知は、名義変更及び理事会の承認であり、同法人が誰の名義で入会を承認したか、そして、誰の名義で登録されているかということが公示方法となる。

本件倶楽部でも、入会者は所定の申込書を理事長に提出し、理事会の承認を得なければならず(定款五条一項)、理事長は会員名簿を作成しなければならず(細則二〇条)本件倶楽部は会員名簿に記載された者を会員として扱えば免責され(細則二二条)、会員証はクラブの会員としての資格を証するものであること(細則二四条二項)、本件倶楽部は、会員資格の譲受人の入会につき理事会の承認が得られた場合には、会員証の裏面に譲渡人及び譲受人が署(記)名捺印し、かつ、本件倶楽部が承認印を押捺し、譲受人に交付するものとし(細則二五条)、一方、会員は、会員資格を質権その他の担保の目的とすることができないこと(細則四〇条二項)、理事長は、定款、細則及び会員名簿を永年事務局に備えておかねばならない(細則八九条)とされている。

右によれば、本件会員権の名義人が大田となっていることはまさに民法九四条二項の適用ないし類推適用により保護すべき対象となる外観にあたる。しかも、大田に対する破産債権者はいずれも善意者であるから、参加人が右外観を信じたことは保護されるべきであり、原告は、仮に実体上自己が本件会員権を保有するものであったとしても、そのことを参加人に対抗することができないというべきである。

2  本件会員証書返還請求の可否

(一) 被告

前記のとおり、被告は、主位的には大田に対し、予備的には破産会社に対し、本件会員権につき質権及び譲渡担保権を有しており、かつ、大田名義により本件倶楽部に対し、平成七年一一月一五日の確定日付ある譲渡通知(乙九)が発せられ、同通知は同月一六日に同倶楽部に到達した。

(二) 原告

被告が主張する譲渡通知は質権設定に関する第三者に対する対抗要件足り得ず、他に、右対抗要件に関する主張立証がない。

また、譲渡担保についても、破産管財人は破産財団を構成する本件会員権の帰属につき正当な利害関係を有する第三者であるから、破産者から破産宣告前に本件会員権を譲り受けた者がその譲受けを破産管財人に主張するには第三者対抗要件を具備しなければならないところ、被告が主張する譲渡担保契約は破産会社及び大田の各破産申立の前であるが、被告が第三者対抗要件と主張する右譲渡通知がなされた右譲渡担保契約から一五日以上経過し、かつ、右の各破産申立ての後であるところ、被告は、破産会社及び大田の各破産申立を知って右対抗要件を具備したものであるから、破産法七四条一項に基づき被告の右対抗要件具備行為を否認する。

(三) 参加人

本件会員権はもともと大田に帰属しているものであるから、被告に対して本件会員証書返還請求をし得るのは参加人のみであり、かつ、原告には参加人に対し破産法八七条に基づく取戻権を行使し得る根拠を欠く。

第三  争点に対する判断

一  本件会員権取得の実質について

1  証拠(〈書証番号略〉)及び弁論の全趣旨によれば、以下の各事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件会員権は個人会員権であるが、この権利を譲受け取得するについては、前名義人に対する譲渡代金の支払のほかに、本件倶楽部に対し名義変更料を支払わねばならないところ、右名義変更料については、個人会員権の場合には法人会員権の半額程度であり、また、年会費についてもおおむね名義変更料と同様な負担関係であることから、破産会社として本件倶楽部のゴルフ会員権を購入するについても右の事情から個人会員権を購入することとなった。

(二) 本件会員権については、大田の名義を用いて前名義人との間で売買契約関係書類の作成、代金決済がなされ、また、本件倶楽部に対しても大田の名義により名義変更手続がなされたが、前名義人に対する代金八五〇〇万円及び本件倶楽部に対する名義変更料の原資については、被告からの借入金五〇〇〇万円を除き、残額のすべてを破産会社の現有の資産により賄い、右借入金分については、破産会社が、株式会社兵庫銀行及び被告の了解を得て、兵庫銀行伊丹支店を窓口にして被告から借入れることとなり、本件会員権が個人会員権であり、かつ、大田名義を用いて取得していることと形式を併せるべく、被告からの借入名義人を大田として借入れた金員で賄われた。

(三) 以後、破産会社は、被告に対する前記借入金の返済を開始し、平成三年八月七日以降、平成六年一月六日までの間の合計二九回の返済については、いずれも破産会社の担当者が破産会社振出の小切手を兵庫銀行伊丹支店まで持参して大田名義の預金口座に入金したうえで自動送金により被告に支払い、約定返済が遅滞し始めるようになった平成六年二月以降の合計一八回の返済については、被告の担当者が集金のために破産会社事務所を訪れ、破産会社の担当者から破産会社の小切手あるいは現金により支払がなされていた。

また、破産会社は、本件会員権を取得した後、本件倶楽部に対し、同倶楽部会員として負担すべき年会費及び利用料はすべて破産会社の経費として支払ってきた。

(四) 大田の自己破産申立に際しては、本件会員権については大田の財産として記載されず、参加人においても、被告から本件会員権取得にかかわる貸付債権の債権届を受けた後である第一回管財人報告書を当該破産裁判所に提出した時点で、本件会員権を大田の財団資産と捉えず、また、同報告書によっても本件会員権取得に当然関係するものとみられる被告の貸付債権についても大田の借入金と捉えなかった。

他方、破産会社の自己破産申立に際しては、本件会員権が破産会社の財産であることが明記され、原告においても当初より本件会員権を破産会社の財団資産とし、本件会員権取得にかかわる被告からの貸付債権について破産会社の負債としてきている。

さらに、大田及び破産会社の各破産宣告後における本件会員権の年会費については、参加人による支払はなく、かえって、参加人は原告に対し、本件倶楽部から送付された年会費等の請求書類を送付したうえで、原告において右費用等を支払うよう求め、原告も当初から本件会員権が自己に帰属するものとして破産裁判所の許可を得たうえでこれまで右の費用等を支払ってきた。

2  右の認定事実よりすれば、本件会員権は実質的には破産会社に帰属する財産であり、かつ、名義いかんのみによって本件会員権の帰属を決すべき法律関係とは解されない。

二  民法九四条二項の適用・類推適用について

1  本件では、名義としても実質的な権利関係としても、破産会社が大田に対して本件会員権を譲渡する意思表示をしたという形態をとっているものではないから、民法九四条二項の適用は考えることができない。

2  そこで、以下において、民法九四条二項の類推適用に関する参加人の主張を検討する。

(一) 証拠(丙四)によれば、本件倶楽部においては、入会者は所定の申込書を理事長に提出し、理事会の承認を得なければならず(定款五条一項)、理事長は会員名簿を作成しなければならず(細則二〇条)本件倶楽部は会員名簿に記載された者を会員として扱えば免責され(細則二二条)、会員証はクラブの会員としての資格を証するものであること(細則二四条二項)、本件倶楽部は、会員資格の譲受人の入会につき理事会の承認が得られた場合には、会員証の裏面に譲渡人及び譲受人が署(記)名捺印し、かつ、本件倶楽部が承認印を押捺し、譲受人に交付するものとし(細則二五条)、一方、会員は、会員資格を質権その他の担保の目的とすることができないこと(細則四〇条二項)、理事長は、定款、細則及び会員名簿を永年事務局に備えおかねばならない(細則八九条)とされていることが認められる。

(二) ところで、本件会員権については、本件倶楽部理事会の承認のない譲渡も当該譲渡契約の当事者間では有効であり、右譲渡につき理事会の承認がないことは、法的には譲渡の条件ではない。また、本件会員権証書については、本件会員権を表章するものではなく、証拠証券にとどまると理解される。しかも、証拠(甲一、甲四九の一、丙一及び四)及び弁論の全趣旨によれば、本件会員権譲渡に伴う会員名簿及び本件会員証書に関する名義変更手続を完了するためには、譲受人は本件倶楽部から求められる高額の名義変更料の支払をしなければならないことが認められる。そして、右のような事情がさらに本件倶楽部理事会の承認のない譲渡を不可避的に生じさせることになる。しかも、本件会員権にかかる会員名簿の公開・閲覧制度が一般的に存在しない。このような事情に照らせば、本件会員権についての本件倶楽部の会員名簿ないし本件会員証書に記載された名義をもって、本件会員権の帰属を一般的に窺わせる外観、あるいは本件会員権の公示方法であるとみることは躊躇されるといわざるを得ない。

したがって、右の各名義の存在をもって権利の外観ととらえ、民法九四条二項の類推適用があるとの参加人の主張を採用することはできない。

三  本件会員証書返還請求の可否について

1  前記一1(二)及び(三)のとおり、本件会員権購入のための融資である被告による金五〇〇〇万円の債務者は破産会社であり、大田の名義は形式にとどまり、実質的当事者が破産会社であることは被告を含めた右融資の関係者において熟知されていたことからすると、右貸付に際し締結されたゴルフ会員権譲渡担保契約証書(乙六)及び質権承諾依頼書(乙七)において担保の設定者が大田とされている点についても、大田の名義は形式にとどまり、実質的当事者が破産会社であることは被告において承知していたものと認められる。

2  被告が提出する譲渡通知(乙九)は、右質権設定に関する第三者たる原告に対する対抗要件足り得ず、他に、右対抗要件に関する主張立証がない。

3 譲渡担保についても、破産管財人は破産財団を構成する本件会員権の帰属につき正当な利害関係を有する第三者であるから、破産者から破産宣告前に本件会員権を譲り受けた者がその譲受けを破産管財人に主張するには第三者対抗要件を具備しなければならない。

被告が主張する譲渡担保契約は破産会社による自己破産申立(甲一九によれば、平成七年一一月二日である。)の前である平成三年八月七日であるが、被告が第三者対抗要件に該当すると主張する右譲渡通知がなされたのは、右譲渡担保契約から一五日以上経過し、かつ、右破産申立ての後である平成七年一一月一五日発送(同月一六日到達)である。そして、前記一1(三)のとおり、被告は、長期間にわたり前記貸付金の返済を破産会社から受けてきており、証拠(甲四九の一)によれば、平成六年ころまでに、すでに破産会社による右弁済に遅滞が生じ始め、平成六年二月からは破産会社による返済の態様にも大きな変化が生じたことが認められ、被告において右のような破産会社による返済態様の変更を了承するについては、破産会社の経営に関する実情を相当程度に把握していたものと推認することができる。さらに、右の対抗要件を具備した日をみると、右譲渡担保契約から数年を経過し、かつ、破産会社による自己破産申立から間がない時期である。以上の事実関係に照らすと、被告は破産会社による自己破産の申立を知って右対抗要件を具備したものということができる。したがって、原告は、破産法七四条一項に基づき被告の右対抗要件具備行為を否認することができることになる。

4  右のとおりであるから、被告は、原告に対し、本件会員証書の返還を拒むことはできない。

四  結論

以上のとおり、原告の請求は理由があり、参加人の請求は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官沼田寛)

別紙会員権目録〈省略〉

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